リレーエッセイ 2013

第4回

「記録することの意義」

 災害研究を進めていく中で問題に直面することが多々ある。それは記録の希薄さである。災害に見舞われた自治体、特に市町村では様々な記録が現存していた筈であるが、歳月の経過とともに消え失せ、結局残るのは災害誌という記録書だけである。記録書と言っても名ばかりで、中身は統計書と変わりなく、それを見ても再現できない。
 阪神・淡路大震災において緊急通報に電話が使えなかったことから、最寄りの消防署に駆け込んだ人たちがいた。消防署ではこれらの駆け込み通報を処理するため、様式を作成しそれに記入してもらうか、職員が聞き取りを行ったと言われている。ところが、受け付けられた通報用紙はいつの間にか捨て去られ、個々の内容を元に研究をしたいと思っても出来ない。残っているのは何件の通報を受け付けただけである。
 確かに生データは膨大であり、保存しておくにも物理的な制約から廃棄される可能性があり、実際に公表されるのは加工された統計表などであり、公表してしまえば必要性が低いと判断した結果であることは容易に想像できる。
 今後、災害は好むと好まざるとに関わらず発生するだろう。それに備えるためにもデータの保全に努めてもらいたいものである。


2013.11.15
神戸市北消防署 中地 弘幸
(ペンを兵庫県立大学の木村 玲欧さんにまわします)

第3回

「あなたはそれを報告したことがありますか?」

 「あなたはそれを報告したことがありますか?」
 これは、病理学者の天野重安先生のことばである。ある病理学会で、はじめて症例報告の発表をした若い先生が、学会に参加していた他大学の教授から「その症例はそれほど珍しいものではない。よく見られるものだ。」と発言され、反論もできずにもたもたしていた時に天野先生がおっしゃった言葉である。これにより発言された教授はそれっきり黙ってしまわれたそうだ。さらに、天野先生は常日頃から「学者がどのような素晴らしい研究をしていても、それを記載し、発表していなければ、その研究はなかったことになる。」と自分の仕事を何らかの形で残しておくことの重要性を強調されていたそうだ。
 これらの話は学生時代に、病理学の狭間章忠先生からどういう経緯で聞いたかは忘れてしまったが、私が感銘を受け、今でも非常に印象深く覚えている話なので、この場をお借りして、お話させていただきました。

2013.9.20
近畿大学医学部法医学教室 西尾 斉
(ペンを神戸市北消防署の中地 弘幸さんにまわします)

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第2回

「緊急消防援助隊の活動と消防士たすきリレー」

 卜部さんからバトンを受けた三重県四日市消防の人見です。再開されたこのリレーエッセイに投稿できることを大変うれしく、光栄に感じています。

 さて、今回は東日本大震災にかかる「緊急消防援助隊の活動と全国の消防士が参加した被災地支援活動についてのお話をさせていただきたいと思います。
 今回の震災ではその被害範囲が広範囲であったことから、全国の消防から緊急消防援助隊が出動し、災害活動に当たりました。阪神淡路大震災がきっかけで法制化された仕組みが全国で初めて機能的に活動することとなりました。
 わが四日市消防も千葉県市原市のコスモ石油や宮城県仙台市のJA全農コンビナートなどに出動し、結果的に全国からは延べ88日間で30,000人を超える消防士が活動を行いました。

 そうした中、震災後に東日本大震災で被災した消防本部や消防職員、そしてその家族を応援し、支援するという取り組みが行われました!全国の消防士がその思いをたすきに込め、元気と希望を運ぶ「全国消防士タスキリレー」です。
 震災から1年後の3月11日に鹿児島県を出発し、185日間をかけて9月11日に宮城県石巻市に到着しました。
 この「消防士たすきリレー」の発案者で実行委員会の副委員長を務められたのは当学会員の呉市消防本部の林国夫さんです。林さんは現在体調を崩されて見えますが、その志は脈々と次代を担う消防士たちに受け継がれています。林さんの1日も早いご回復を願っています。

2013.5.20
四日市市 消防本部 人見 実男
(ペンを近畿大学 西尾 斉さんにまわします)

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第1回

「災対研ホームページリニューアル。エッセイ復活!」

 災害対応研究会のホームページが新しくなりました。前々から検討は行っていたのですが、なかなか実現できなかったまま・・・。しかし、ようやくご覧頂ける形になりました。以前のニュースレターが無いさみしさから、恒例のリレーエッセイも復活です。(何してくれてるねん!と思う方もいるかも・・・でも私は好きだったんです実は)と、いうことできっかけとして最初にかかせていただきます。
 さて、東日本大震災より津波防災サインの動きが激しいこのごろです。H24年5月に本省道路局が「海抜表示シート」を発表、県・政令市にも設置補助金対象として周知され、各自治体で検討されています。市民にその地点の地盤高を知らせるものですが、それがいまいち分かりにくい。まま広がってしまう!より判りやすく美しいものをまち中に!そこで、私たちNPO法人防災デザイン研究会では、海抜サインの表示・設置のデザイン検討を開始。現在、四国をはじめ設置に向け活動中です。

2013.4.5
株式会社GK京都 卜部 兼慎
(ペンを四日市市 消防本部の人見実男さんにまわします)

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