リレーエッセイ 2015

第4回

「想定外と自分」

 災害対応や危機対応でよく想定外という言葉を使う方々がいらっしゃいますが、想定内容が足りなかった言い訳なのでしょうか?もちろん、想定が足りなかったことを反省することも重要ですし、想定外という言葉で片付けようとしているけしからん人もいたことは確かです。しかし、本当にそれで良いのでしょうか?
 “情報を制するものは災害を制する”と言われておりますが、大規模災害発生時の情報において8割は誤報から始まるとも言われております。正に災害対応は想定外の連続なのです。だからこそ我々は、“想定外を想定する事前の体制づくり”と“想定外でも戦える体制づくり”が必要不可欠なのです。
 この研究会で研究されている内容の一つをとっても、非常に有用な内容ばかりです。想定だけを対応するという従来のRisk Management型対応だけでなく、想定外でも戦えるManagementがあります。実際にある災害であったことですが、警戒FAXが6時間放置されていたことが問題に取り上げられていました。しかし、情報のマネージメントを知っていれさえすれば、情報は出したらその後にFeedbackとEvaluationができ、そうすればどっちのせいだなんていう責任の擦り付け合いもなくなり、そして何より犠牲者を出さずにすんだかもしれないのではないでしょうか。危機管理は、ちょっとしたことだけど忘れてはならないものの積み重ねなのです。
 東京オリンピック・パラリンピックという、日本語が話せない災害弱者ともいうべき外国人が数万人規模で押し寄せるという、危機管理の視点からするとすでに大規模災害イベントが2020年に予定されています。その時に、真に国際評価される対応ができるために、この研究会が果たす役割は大きいのではないでしょうか?
 東日本大震災の前に、ある企業が『災害対応はすべて想定できています』と言われたとき、『でもあなたの奥様、結婚当初と比べて想定内ですか?』というなんとも笑えない質問をしたとき、皆さん苦笑いをしていました。自分のことである、身近な想定外にも気がつかないのは、正常のバイアスのせい?(笑) もちろん、私は想定内?かな!?


2015.12.1
防衛医科大学校 秋冨 慎司
(ペンを岩崎敬環境計画事務所 岩崎 敬さんへまわします。)

第3回

「サイバー攻撃への危機対応」

 2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開かれます。
NTTはゴールドパートナーとして、サイバーセキュリティを含む通信サービスを守る使命を有しています。
しかし、それは簡単ではありません。
 情報通信研究機構(NICT)の発表によると、日本の官公庁・企業へのサイバー攻撃関連の通信は、2014年の集計で約256億件に上り、前年からほぼ倍増しています。社会インフラなどはもちろんのこと、一見、ネットワークに繋がっていそうにない自動車や航空機にまで、攻撃の対象が広がっています。今やサイバー攻撃は、自然災害以上に我々の現実社会に被害を与える大きなリスクとなっているのです。
 私達は、自然災害を中心とした危機対応を研究してきましたが、自然災害への対応も、サイバー攻撃への対応もマネジメントのフレームワークは同じと考えています。これからは、リアル・サイバーの統合リスクに対し、自然災害を中心に培ってきた成果を活かしていきたいと思います。

(開発中の統合リスクマネジメント支援システム)


2015.9.7
NTTセキュアプラットフォーム研究所
一ノ瀬 文明
(ペンを防衛医科大学 秋冨慎司さんにまわします。)
 

第2回

「年度の節目に重大インシデント」

 平成27年度が始まって2か月が経ったが、この時期、実は日本は危ない。ご存じのとおり日本の年度は4月始まりだ。この節目の前後に全国で一斉に人事異動、新規事業スタート、新システム稼働といったことが行われる。そこに潜むインシデントはいかほどであろうか。多くの巨大事故は小さな人為的ミスがトリガーとなって発生する。未熟なままの操作技術、不十分な引継ぎや確認漏れ、不測事態の未経験といったことが、社会を揺るがす事態へと繋がっていく。事実、遡れば鉄道事故、航空機ニアミス、大手銀行システム停止、大規模通信障害、化学プラント暴走など枚挙に暇がない。一方、消防や警察、海上保安庁など災害対応する側の組織でも同じだ。人事異動による乗組員の交替、新装備導入による熟練不足といったことで少なからずレベルダウンする。自然災害での減災のみならず、この時期、巨大事故防止を願ってやまない。


2015.5.25
神戸市消防局 菅原隆喜
(ペンを日本電信電話株式会社 一ノ瀬文明さんへまわします)

第1回

「阪神・淡路大震災から20年思うこと」

 1995.1.17 の朝は、家族の無事を確認して、車で神戸市役所に向かいました。六甲トンネルを抜けると、市内から何本もの真っ白な煙の柱が立ちのぼっている……それ以降、倒壊建物に閉じ込められた人たちの救急救助活動を懸命に続け時間が過ぎて行くのですが、応援に来てくれた熊本市消防局の救急車を見たとき、「我々だけでなく、全国の人たちが神戸を応援してくれている」と涙がでるほど嬉しく、心強く、感動したことを覚えています……。 それから20年、1.17でわかったこ「7:2:1 」、自助、共助の大切さを改めて感じています。まずは災害から自分の命を守る能力を身につけてほしい、そして周囲の人たちを助けてほしいと思っています。地域や企業、大学などで防災の話をする機会が多いのですが、多くの人が災害時に「何かしたい!」という気持ちを持ち、助け合う。そうした善意を肌で感じ、希望が見えます。


2015.3.10
神戸学院大学 現代現在社会学部 松山雅洋
(ペンを神戸市消防局 菅原隆喜さんにまわします)