リレーエッセイ 2016

第1回

「想定外の何か(something super)!」

・想定外と想定内の間

 想定外の存在を認識するか/しないか、の境はグレーである。想定外があるやもしれないがそこは見ないことにする/想定外ということもあるので安全側で考える、この違い。このグレーゾーンをどのように解釈し扱うかは無限大だ。

・グレーな生命の発生段階

 視点を変えて生命の話。その発生過程において、いつから生命としての自己を確認できるのかは大きな疑問である。一つの細胞が分裂し、気管・臓器に成長し生命体となる過程は未知に溢れている。とりわけ免疫系システムの発生過程には確定されたプログラムは存在しない。造血幹細胞からの分化・分裂過程は場の状況に応じたダイナミックな自己組織化過程だそうだ。いつ、どのように、そのような振る舞いが始まるのかは明確ではない。しかしそのような’振る舞いを行う体系がある’のは事実で、これを免疫学者である故多田富雄先生はスーパーシステムと呼び、その存在により発生過程を説明している。この発想は既に解っている科学智(想定内)を越えた部分に、自己組織化という予め決められない過程を想定した理論である。

・工学的仕様 VS 自己組織化による安全

 1000年に一度の津波災害からの復興過程に戻ろう。賛否激論の巨大防潮堤。その姿が現実となり再度疑問を呈している。1000年に一度の津波には耐えないが100年に一度の津波には耐えるという設計仕様である。さて100年と1000年の発生頻度の違いで設計仕様の線引きは可能か、設定された仕様による防潮堤で、住民安全の担保はどこまで出来るのか、例え1000年頻度ではなくても 想定した津波と異なるイベントが起きた場合、どのような災害となるのか解らない。住民はダイナミックな対応が可能だろうか?
 住民の根本的な安全は柔軟な自己組織化行動で達成される。そもそも自然災害が想定された様に発生し、構築物が設計仕様通りの耐力を発揮し、市民が訓練通りに行動する確率は極めて低い。
 工学的発想による復興の先行は、暗黙の内に人の想像力と創造力を削ぐことになり、次の災害はより拡大すると危惧している。そもそも社会システムの進展は、過去と同じイベントでも異なる災害となる、つまり災害自体は常に最先端でありダイナミックである。
 超システムという免疫学の知的推論に触れて、 市民のダイナミックな行動を導く環境作りに根本的な発想の転換が必要であると感じている。


2016.3.1
(株)岩崎敬環境計画事務所、フランス水アカデミー会員 岩崎 敬
(ペンを国立研究開発法人 防災科学技術研究所
レジリエント防災・減災研究推進センター 鈴木進吾さんへまわします。)