アジア防災会議2003の成果について

アジア防災会議2003の成果について

平成15年1月17日

近年、地震や風水害、地すべり、火山の噴火、森林原野火災などの災害が頻発し、それらによって多くの尊い命が失われるだけでなく、経済的損失が増加の一途をたどっている。また、無計画な都市化、地球環境・地理的条件を無視した経済活動や開発により、新たな災害が発生する傾向が見られる。開発途上国においては、更に被害は甚大で、持続可能な開発のためにも防災に真剣に取り組む必要がある。特に、災害が頻発し、複雑化しているアジアにおいては、早急に環境管理、地域開発計画などと連携した総合的な防災対策を講じる必要がある。

このため、アジア地域の災害対策のこれまでの成果と残された課題を総括するとともに、21世紀の新たな地域防災戦略の指針を提案することを目的として、アジア各国及び国連をはじめとする多数の国際機関の参加を得て、アジア防災会議2003を開催した。

国連は1994年に横浜において、防災分野では世界で初めての世界防災会議を開催し、その後の世界の災害対策の指針となる「横浜戦略とその行動計画」を採択した。現在、国連機関で防災を担当する国際防災戦略(ISDR)は、94年から10年目となる2004年を目途に「横浜戦略とその行動計画」の見直し作業を進めている。本会議は、その一翼を担うものであり、会議の成果はアジア地域の提案として、国連の作業に反映される。なお、本会議は阪神・淡路大震災の経験や教訓に基づき、情報共有、人材育成などを通じ、「国際防災・人道支援拠点」づくりをすすめている兵庫県の全面的協力により、当地で初めて開催された。

開催日

平成15年1月15日(水)〜17日(金)

場所

神戸市中央区港島中町6丁目9番1
神戸国際会議場 国際会議室等

テーマ

「地球との共存:しなやかな防災社会の構築に向けて」

会議においては、「都市の災害対策」、「気候変動と災害」や「防災における政府・NGO間の相互協力」について24カ国、26の国際組織等(約250名)の参加のもと、

  1. 災害による被害の軽減に向けた教育、メディア、環境、開発等の様々な分野との連携
  2. 異常気象に対する早期警戒態勢の構築に向けた国際的な協力体制の構築
  3. 国家レベルでの協力に加えて、自治体、NGO、民間企業等の様々な主体との重層的な連携

等の必要性が強調されるなど、新たな国際防災戦略の策定に向けた活発な議論が交わされた。

《参考》
国際防災戦略アジア会合(主催:国連国際防災戦略(ISDR)事務局、内閣府)
国際防災・人道支援シンポジウム(主催:国際防災・人道支援協議会)
アジア防災センター国際会議(主催:アジア防災センター)

問い合わせ先
  • 内閣府統括官(防災担当)付参事官(国際防災担当)
  • 兵庫県防災局防災拠点整備室
  • アジア防災センター国際会議に関すること…アジア防災センター
  • 国際防災・人道支援シンポジウムに関すること…人と防災未来センター
各セッションの議論について
開催日

平成15年1月16日(木)〜17日(金)

主催

国連国際防災戦略(ISDR)事務局、内閣府

内容

「アジアにおける横浜戦略と行動計画の推進状況と提案」

① パネルディスカッション(17日午前)

実効性のある災害対策を推進するためには、防災以外の分野との連携も不可欠である。災害が発生する背景には、貧困や環境破壊といった社会的な問題が存在することを考慮すれば、災害による被害の軽減のためには、教育、メディア、環境、開発等の様々な分野との連携が必要となる。また、気候変動と災害の関係に関する科学的研究や早期警戒のための技術開発については、学術・技術的な分野との連携が不可欠である。

さらに、地域の総合的な防災力を強化するためには、コミュニティレベルの活動に対する地域住民や地元企業等の当事者の参画が不可欠であることを考慮すれば、今後は国家レベルの協力に加えて、自治体、NGO、民間企業等、様々な主体との重層的な連携が必要である。

《主な発言者》

コーディネーターMr. Salvano Briceno[国連ISDR事務局]
原 克彦[内閣府参事官]
記録者Dr. Feng Min Kan[ISDR事務局]
パネリストMr. Patrick Safran[アジア開発銀行]
Mr.Loy Rego[アジア災害防止センター、バンコク]
西川 智[アジア防災センター所長]
亀田 弘行[防災科学技術研究所・地震防災フロンティア研究センター所長]
Mr. Thomas Brennan[国連開発計画 バンコク]
野田 順康[国連人間居住センターアジア太平洋部長、福岡事務所長]
Dr. Jerry Velasquez[国連大学]
Dr. Badaoui Rouhban[ユネスコ]
② セッション「都市災害」(16日午後)

アジア地域では、経済発展に伴って急速な都市化が進展している。この結果、無秩序な開発が地震や洪水の被害を増大させており、特に、開発途上国の持続的発展のためには、都市の災害対策は必要不可欠であることが認識されつつある。また、1995年の阪神・淡路大震災が示すように、近代都市は様々な脆弱性を抱えており、都市で災害が発生すればその人的・物的被害は甚大なものとなる。このようにアジアにおいては、途上国、先進国を問わず都市の災害に備えることが極めて重要な課題となっている。

このため、脆弱性の評価指標等に基づいた地域のリスク評価を進めるとともに、震災を経験した兵庫県から報告があったように「災害時の情報通信機能を備えた広域防災拠点」や「公園等を活用した地域の防災拠点、広場・小学校等を核としたコミュニティ防災拠点など市街地の防災施設」等の整備を進めることにより、脆弱性の少ない都市を構築し、被害が発生した場合に迅速に復旧・復興できる体制づくりを進めることが必要である。

《主な発言者》

コーディネーターDr. Carlos Villacis[国連ISDR事務局/UNESCO]
記録者岡崎 健二[国連地域開発センター防災計画兵庫事務所長]
パネリスト上原 正裕[兵庫県開発指導室長]
目黒 公郎[東京大学生産技術研究所助教授]
深澤 良信[人と防災未来センター副センター長]
Mr. Alan Mearns[南太平洋地球科学委員会、フィジー]
Dr. Badaoui Rouhban[ユネスコ]
Prof.Renan Ma Tanhueco[国連大学]
③ セッション「水災害」(16日午後)

21世紀には、人間活動が自然環境に影響を与える結果起きる災害に対して備える必要性が指摘されている。たとえば、地球の温暖化により平均気温が上昇した場合、豪雨の頻度や台風の強度の増加、エルニーニョ現象に関連した干ばつや洪水といった災害が増加することが懸念されている。また、海面上昇により、島嶼諸国における高潮の危険性の増大や沖積地における地震の際の液状化の範囲の拡大が指摘されている。このため、数十年規模の超長期的な視点から見た温暖化と災害の関係に関する研究を推進するとともに、異常気象に対する早期警戒態勢の構築に向けた国際的な協力体制の構築が必要である。

《主な発言者》

コーディネーターMs. Helena Molin Valdes[国連ISDR事務局]
記録者Prof. Srikantha Herath[国連大学]
パネリストMr. Sospeter Muiruri[干ばつ監視センター・ナイロビ]
Ms. Mandira Shrestha[国際総合山岳開発センター、カトマンズ]
三輪 準二[国土交通省国土技術政策総合研究所危機管理技術研究センター]
Dr. Ivan Obrusnik[チェコ水力・気象研究所]
Dr.Dugkeun Park[大韓民国国立防災研究所]
Mr.Katsuhiro Abe[世界気象機関]
開催日

平成15年1月16日(木)

主催

国際防災・人道支援協議会

内容

「地球との共存-しなやかな防災社会の構築に向けて」(パネルディスカッション)

都市化の進展に伴う災害脆弱性の増加や、地球環境の悪化による気候変動等により、アジア地域においては災害が多発していることから、これまでのハード中心の防災対策に加え、ソフト面の対策も充実させることが重要である。これまでの教訓として、阪神・淡路大震災(1995年)、インドのグジャラート地震(2001年)、また、ニューヨークWTCテロ(2001年)後のマンハッタン再開発においても、政府やNGO等における様々な活動主体相互間の調整作業がいかに重要であるかがあらためて指摘された。

さらに、地域の防災能力は市民一人ひとりの防災意識によるところが大きいこと、その向上には教育、普及啓発が依然として最重要課題の一つであることが再認識され、そのためには地域の文化や社会背景への配慮が必要であり、有効な防災対策には貧困の問題や女性の地位向上といった社会的な課題の改善が不可欠であることが指摘された。

そして、防災とはあらゆる分野、組織にまたがることであり、防災に関わる者が有機的に連携し、互いに補完しつつ、同時に目標や意識を共有することが重要であることが示唆された。

最後に、わが国においては環境保全に防災の視点を加えた、開発途上国における持続的な開発に向けた支援が行われていること、兵庫県においては、多彩な機関が緩やかなアライアンス「国際防災・人道支援協議会」を形成しており、調査研究から実践的活動の分野にまでわたる広範な連携による地域における国際貢献を行うこととしていることが報告され、こうした取り組みの今後の大きな成長に向けて、各方面から大きな期待が寄せられた。

《主な発言者》

コーディネーター河田 惠昭[人と防災未来センター長/国際防災・人道支援協議会会長]
Mr. Kenneth C.Topping[京都大学客員教授]
パネリストMs. Sushma Iyengar[アビヤン事務局長、インド]
Dr. David Mammen[ニューヨーク行政研究所所長]
隅田 栄亮[国際協力事業団理事]
海津 正倫[名古屋大学環境学研究科教授]
コメンテーターMr. Salvano Briceno[国連ISDR事務局]
側嶋 秀展[外務省総合外交政策局地球環境課長]
開催日

平成15年1月15日(水)〜16日(木)午前

主催

アジア防災センター

参加者

21カ国の政府関係者42名、21の国際機関等

内容
① 「防災への総合的アプローチ」

テーマ: Total Disaster Risk Management(TDRM,総合的災害リスクマネージメント)アプローチ実施へ向けた目標と方策

TDRMに正解はない。人間社会の構造の複雑化に伴い、災害も巨大化し、思わぬ被害が発生している。国家レベルの防災行政においては、総合的な視野で時代や場面やそれぞれの国の特色に適した防災を考え続け、実施に向け調整し続ける必要がある。防災戦略の重要性が確認され、国際的・多国間の協力の必要性も確認された。フィリピン代表は、まずTDRMによる防災への総合アプローチについて紹介された。次いでスイス代表もスイスでの総合的な防災対策、アプローチを報告、日本の気象庁から防災情報の基礎となる気象予測の精度を高めることの重要性、カンボジア代表はメコン川下流域における国境を越えた地域としての総合的な取り組みが紹介された。日本消防庁は、コミュニティベースのボランティア活動の重要性を指摘した。

《主な発言者》

コーディネーターMr. Terje Skavdal[国連OCHA神戸・アジア地域アドバイザー]
記録者Ms. Elma Aldea[フィリピン政府]
発表者Mr. Emmanuel de Guzman[緊急援助・研修同盟、フィリピン]
「TDRMによる防災への総合的アプローチ」

Dr. Markus Zimmermann[スイス政府]
「スイスでの防災へ向けた総合的アプローチ」

永田 雅[気象庁太平洋台風センター長]
「気象予測と防災気象情報」

Mr. Veasna Bun[メコン川委員会、カンボジア]
「メコン川下流域における総合洪水対策」

務台 俊介[消防庁防災課長]
「消防団と自主防災組織」

Ms. Elma Aldea[フィリピン政府]
「多機関と連携した防災への総合的アプローチ」
② 「防災への総合的アプローチ」

テーマ: 防災・災害対応における政府・NGOの相互協力

防災活動においては、政府(中央、地方)、NGO、コミュニティー等の多様な主体間の連携が重要であることが再認識され、災害復旧のみならず、災害予防に焦点をあてるべきであることが確認された。

各政府、国際機関、NGO他の組織の間の調整のためのメカニズムの整備について様々な意見が出され、まず多国間レベルの調整メカニズム、企業の役割、政府とNGOとの役割の明確化が、それぞれの発表者の視点から報告され、信頼できるパートナーシップについてYMCAからの有意義な報告もあった。

これらを受け、持続的なパートナーシップの継続や強化のためには、政府や、地方、NGO、他の各組織間でのそれに向けた不断の努力が必要であり、コミュニティレベルの活動を強化するための地方政府、民間セクター、NGO等多様な推進主体の参画の必要性が提案された。

《主な発言者》

コーディネーターMr. Emmanuel de Guzman[緊急援助・研修同盟.、フィリピン]
記録者泉 貴子[国連OCHA神戸・アジアユニット]
発表者西川 智[アジア防災センター所長]
「非政府部門が果たす大きな役割」

Ms. Ang Siok Hui[シンガポール国際基金]
「災害対応への政府とNGOの連携」

茂木 寿[東京海上リスクコンサルティング]
「企業と自治体による防災協働」

Mr. Nhim Vanda[カンボジア政府]
「国家災害対策委員会(NCDM)と国際機関およびNGOとの協力・連携」

Mr. Nimal D Hettiarachichi[スリランカ政府]
「防災および災害救援のための政府とNGOの連携」

Mr. Richard Grove-Hills[国際赤十字連盟・赤新月社連盟]
「防災・災害対応における政府・NGOの相互協力」
③ 「防災への総合的アプローチ」

テーマ: GLIDE(Global IDEntifer)を利用した世界的な災害情報共有システムの構築

アジア防災センター等が中心となって進めてきたGLIDE(世界災害共通番号制)を利用することで災害情報共有が促進されること、各国、各防災機関等において同プロジェクトについての評価が得られた。

今後は、国際的に比較可能なデータベースの構築には、言語の問題や、非公開の情報の存在などといった課題を解決するとともに、個々の組織が構築してきたレベルの異なる災害関連の情報の共有のための取り組みを国レベル、国際組織レベル等で推進することの重要性が確認された。

《主な発言者》

コーディネーターMr. Kamal Kishore[国連開発計画、デリー]
記録者尾高 修一[国連OCHA神戸・リリーフウェブ]
発表者Dr. Hector Babayan[アルメニア政府]
「アルメニアの災害情報システム(DIS/Earthquake)の構造」

Dr. Dugkeun Park[大韓民国国立防災研究所]
「韓国の災害分類及び将来のGLIDEとの関係」

Mr. Katsuhiro Abe[世界気象機関]
「熱帯低気圧の名称」

荒木田 勝[アジア防災センター]
「GLIDEのコンセプトと方向性」

Mr. Kamal Kishore[国連開発計画、デリー]
「災害情報DBの品質と精度」

Mr. Julio Serge[防災社会研究ネットワーク、ジュネーブ]
「リスク管理としての災害履歴」

尾高 修一[国連OCHAリリーフウェブ]
「人道問題情報管理と交換」

村田 昌彦[人と防災未来センター]
「GLIDEを使った日本の効果的な情報共有」