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研究員コラム

人と防災未来センターの研究員から、自然災害のこと、減災や防災の知恵、行動変容のこと、災害からの復興・復旧のことについて、コラムをお届けします。
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この夏、千葉県や石川県、青森県、宮崎県など、さまざまな地域で線状降水帯による水害が発生したとのニュースを、毎日のように目にしています。気候変動の深刻さと、それに伴う自然災害の脅威を改めて実感しております。

 日本国内では、気候変動を踏まえた治水対策が進められています。皆さんも「流域治水」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。これまでの治水対策では、河川区域と集水域を中心に、できるだけ水を溢れさせないための対策が進められてきました。一方、流域治水は、河川から水が溢れてしまった場合も想定し、氾濫域も含めて被害を小さくしていくことが重視されています。つまり、「水を溢れさせない」だけでなく、「溢れてしまった場合は、どう被害を小さくするのか」という視点です。私は、この氾濫域での対策が、建築・都市計画分野に期待されているところだと考えています。そこで今回は、近年の私の関心領域の一つである「土地利用規制」に着目して、少しご紹介したいと思います。

 日本の治水対策の中で、土地利用に関する制度や法律等がどのように変わってきたのかを遡って調べたことがあります。土地利用そのものは、1977年の総合治水対策から、流域を3区分し流量を分担させる取り組みがありました。一方、治水対策を目的とした土地利用規制の一つの転換点になったのが、2001年の「水防災対策特定河川事業」です。現在は「土地利用一体型水防災事業(2006~)」と呼ばれているこの事業は、連続堤の整備が困難な地域を対象に、災害危険区域の指定によって新たな住宅の立地を抑制するとともに、輪中堤や宅地嵩上げによって現在暮らしている住民の生活を守ります。単純に「危険な場所から移転してください」ではなく、すでに存在するまちを守りながら、将来的に水害リスクにさらされる住宅を増やさないという考え方です。

 2021年には、流域治水の実現に向けた法的な仕組みとして、いわゆる「流域治水関連法」が施行されました。その一環として、建築基準法や都市計画法なども改正され、建築・都市計画分野から水害対策にアプローチすることが、これまで以上に重視されるようになったと感じています。土地利用規制の観点からみると、特定都市河川浸水被害対策法に基づく「浸水被害防止区域(レッドゾーン)」が新設され、市街化調整区域でありながら一定の開発が認められていた都市計画法第34条第11号・第12号区域から、水害リスクの高いエリアを除外することが求められるなど、土地利用規制を用いた治水対策の仕組みが増えています。  土地利用規制は、将来的に水害リスクの高い地域に住宅などが増えることを抑え、暴露量を増加させないための有効な手段の一つだと思います。ただ、実際に制度を導入するとなると、私有財産の関係や、住民の理解、若い世代が地域に戻りづらくなるのではないかという懸念など、さまざまな課題もあります。つまり、制度をつくるだけではなく、地域住民との合意形成も含めて検討していく必要があります。こうしたことを考えると、地方自治体が高齢化や地域活性化、都市のコンパクト化といった地域の将来像を考えながら、土地利用と治水対策を一緒に考えていくことが大切ではないかと考えております。治水対策のための土地利用規制を考えるのではなく、「これからこの地域をどのようにしていきたいのか」という地域の将来像の中に、治水対策を位置づける。そこに、建築・都市計画分野から流域治水にアプローチするヒントがあるのではないかと思っています。

研究員 李 惠智

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