震災を語る 第7回

震災を語る 第7回

私の体験

どんなに手を尽くしても、胸のつかえが消えることはありませんでした

震災当時、私は神戸市消防局の救急救助課長という立場にありました。自分や家族のことはさておき、市民の救助を最優先。救助活動の指示を出さなければならないため、家族の安否も確かめないまま、震災後の3日間を不眠不休の救助活動に費やしました。ほかの多くの署員も、同じような状況だったと思います。

消防職員は全力を挙げて消火・救助・救護にあたりました。でも、午前7時頃までに発生した63件の火災に対して市街地消防署のポンプ車は25小隊。消火活動は思うように進まず、残念な結果ではありますが、神戸市全域で消失面積64ヘクタール、全焼7,000棟、死者4,564名という被害を食い止めることはできませんでした。

近隣の住民は、生き埋め者の救出・救護を求めて、次々と署に殺到してきました。救急隊員は、署の車庫内に応急救護所を設けて傷病者の応急処置とトリアージを行い、重症者を近隣の医療機関へ搬送しました。消火栓の断水や交通渋滞という悪条件が重なるなか、必死の努力をしたにもかかわらず、大被害が発生したことに対して、多くの職員はどうしようもない無力感に襲われました。消防の制服で街を歩けば、罵声を浴びせられることもよくありました。でも、それも仕方ありません。想像をはるかに超える災害に遭遇し、皆、怒りのやり場もなかったのでしょう。私たちは、この震災の教訓を、今後の安全で安心して住みよい街づくりに活かしていきたいと思います。

備えるだけでは不足。検証・訓練こそが大切です

【写真】断層型(内陸で起きる地震)→阪神大震災  海溝型(海底で起きる地震)→東海・東南海地震

阪神・淡路大震災における救助活動は、自助が70%、共助が20%、公助が10%だったといわれています。大地震直後の10時間くらいは、「消防車も、救急車も、救助隊も来ない」という最悪の事態を想定すると「自助・共助」が非常に大切だと思います。だからこそ、日頃からできる限りの備えをし、災害に見舞われた時に慌てないようにしておきたいものです。

まず、自宅の耐震強化工事や家具類の転倒・落下防止対策をして、自分や家族の安全を確保することからはじめるとよいと思います。そして、自分が暮らす地域の地形や環境、ハザードマップを確認しましょう。災害の歴史を知ることは、その地域の災害予測にもつながります。避難場所に関しては、知っているだけでは何の役にも立ちません。避難場所の最短ルートがふさがっていた時のために複数のルートを調べ、実際に歩いておきたいですね。

それから、消火器具を部屋に置いているからと満足していませんか? 消火器具や救助資材はマニュアルなしで誰でも使えるものか、必ず検証しましょう。防災訓練で、代表者だけが消火器具の使い方を実践している自治体がよくありますが、いざという時には、誰が消火活動にあたれるか分かりません。皆が問題なく使えるように、訓練しておいていただければと思います。

自主防(自主防災組織)を中心とした、情報の一元化に協力してください

災害時に役立つ、もう少し具体的な行動についてもお話ししておきます。生き埋め者やけが人、火災の発生などをいち早く把握できるのは、長年そこに住み、働いている人たちです。地区の自主防(自主防災組織)リーダーは、そういった情報を集めて地図などに書き込み、地区外から駆けつけた消防・警察・自衛隊、ボランティアなどの救助隊に伝えるようにするとよいでしょう。そして、生き埋め者やけが人がいると思われる場所には、ひと目で分かるように白旗などで目印をしてください。そうすれば、より早く適切な対応ができます。

震災直後の混乱した状況では、安否や災害状況を正確に把握するのは極めて困難なうえ、さまざまな情報が錯綜します。ですから、自分の目で確かめた情報と、人から聞いた不確かな情報を分けてメモしておくことが重要になってきます。とくに役立つのは、「拡大した住宅地図」。これに住民の消息・建物の損壊状況・出火点・焼損区域などの情報を分かる限り記録しておけば、実態を把握するのにたいへん役に立ちます。

阪神・淡路大震災が免れた災害についての心構えは、できていますか?

【写真】ほんとにだいじにするもの 地しんにあって ほんとにだいじにしなきゃ だめなことをおしえてもらった ほんとにだいじにするもの それは、いのち・かぞく・友だち、 それと水 地しんは、それをおしえるために 神戸をおそった (神戸市・小学校三年(当時))

震災のあと、防災マニュアルの見直しを行った自治体は多いと思います。その際に、阪神・淡路大震災では運良く免れた災害のことについて、考慮されたでしょうか? 10年前の震災は、発生時刻が早朝だったために鉄道や自動車の運行量が少なく、被害が比較的小さくて済みました。これが8~9時といった通勤ラッシュの時間帯であったなら…、もし津波が発生していたなら…、ガス爆発が起きていたら…、大規模な山崩れがあったなら…。

背筋が凍り付くような二次的災害は、いくつも想定されます。どれも、阪神・淡路大震災と同規模の地震によって、起こりうること。実際の被害体験を想定した対策だけでなく、考えられるすべての災害についての対策を講じなければ、被害を食い止めることはできません。震災の救助活動を体験した我々には、この現実を広く世界に訴え、情報提供していく義務があると思っています。

(インタビュー 2005年2月3日)