震災を語る 第8回

震災を語る 第8回

私の体験

交通事故? 自分の置かれた状況が、しばらくわかりませんでした

地震で崩れ落ちた高速道路の200メートルほど北に位置する自宅で、震災に遭いました。神戸にしては珍しく大きな揺れだったので、隣の部屋で寝ている息子を起こそうと思って体を起こし座りかけました。「余震がおさまった?」と思ったところへ突き上げるような大きな揺れがきて、飛んできた仏壇をすっぽり被るような形でその下敷きになりました。頭を打ってしまい、しばらくは気を失っていたようです。おぼろげに意識が戻ると、目の前は真っ暗闇。息がものすごく苦しくて、「交通事故に遭って目が見えなくなったのかな?」と、思っていました。

もうろうとしながら「助けて」と叫んでいたのですが、倒れた高速道路を取材するヘリコプターの音に声はかき消され、探しにきていた娘もあきらめかけていました。その時、飼っていたシェルティーという賢い犬が娘に噛みついて、私が生きていることを知らせてくれたそうで、夜の7時頃になってようやく助け出してもらえました。わずかな空間があって命拾いしましたが、筋肉が圧迫されて損傷し、診断結果はクラッシュ症候群。災害などで救出が遅れた場合に多いとされる、全身障害を起こしてしまったんです。

命さえあれば、何とかなる。助けていただいた方々に感謝しています

【写真】倒壊した家屋

病院では、生と死が隣り合っていました。私自身も、死んでいてもちっとも不思議じゃない状況だったと思います。入院した病院では、お医者さんやほかの患者さんに助けてもらいながら、生き抜くことができたのです。力づけてくれた方のなかには、ガンの手術をして快方に向かっているという方もいました。形は違っても、一度死を覚悟して助けられた命ということで、思いは同じだったのかもしれませんね。

切断を覚悟していた右足も、先生方の懸命な指導によるリハビリのおかげで、歩けるまでに回復。命さえあれば、何とかなるものです。逆に、命を落としてしまっては、何もできません。だから、自分の命も人の命も、大切にしてほしいと思います。地震や事故というのは、いつ起こるかわからないもの。だから、今日のことは今日中に片付けて、毎日を大切に生きなければなりません。そうすれば、「親孝行しておけばよかった」と後悔することもありませんしね。

不運にも、私より先に逝った息子。今でも帰ってくるような気がしています

地震の時、一緒に住んでいた息子は「地震があっても安全なように」と、あまり物を置かないシンプルな部屋で寝ていました。ところが、家が崩れた時にかばってくれる物がなかったため、落ちてきた家の梁が息子を直撃。即死だったようです。

なぜ若い息子が先に死んで、年寄りの私が生きているのか? なぜ逆じゃなかったのか? と、しばらくは辛くて泣いてばかりいました。でも、私自身は右足の麻痺で3カ月ほど入院していて、息子の遺体をこの目では見ていません。だから今でも実感がなく、息子はどこか遠くに行っているだけなんだと。またいつか「ただいま!」と帰ってくるんだ、と今も心のどこかで思っています。

避難グッズを用意しておくだけでも、緊急時の気持ちにゆとりができます

【写真】庄野 ゆき子さん

個人的な経験からいうと、震度7の地震では思うように動けません。下手に動こうとすると大けがをする可能性がありますから、自分の腕で頭を覆って、しゃがみこめばよいと思います。いざという時に慌てないためにも、普段から「今地震が起きたら、自分の命を守るためにどうすればいいか?」と考えておくようにしましょう。そういう心がけで常にいれば、落ち着いて対応できるはずです。

避難グッズを用意しておくことも、気持ちのゆとりにつながります。ペットボトルの水とクラッカーなどの食べ物を1日分と、軍手やマスク、靴。たくさんはいらないので、必要最低限のものを外開きのドアの近くに用意しておくこと。内開きのドアは、物が倒れた時に開かなくなってしまい、避難口には向いていませんから。

阪神・淡路大震災を知らない、子どもたちへ

最後になりますが、ある避難所で実際にあったという話を紹介します。届けられた救援物資のパンと牛乳の数が足りず、どうやって配ろうかと大人たちが思案していた時のこと。子どもたちが、黙ってその物資を配りはじめたそうです。自分たちだって食べたいだろうに、お年寄りや小さな子どもたちを優先して…そういう優しい気持ち、忘れないでほしいですね。「ボランティア」と大げさに構える必要はないと思います。その場の状況をみて、自分のできることを考えて、それを行動に移せたらいいですよね。

語り部の話に耳を傾けてくれる子どもたちのなかには、震災を知らない世代の子もいます。彼らにも、普段からそういう温かい気持ちを大切にしてもらえたらな、と思いながらいつも話をしています。

※クラッシュ(挫滅)症候群
交通事故や地震などの災害によって救出・搬送が遅れ、救出後に急性腎不全や心不全などをひき起こす全身障害のこと。損傷・圧迫された筋肉から出るたん白質やカリウムなどが急激に全身に広がって腎臓や心臓の機能を悪化させると考えられている。 救出から治療開始までの時間が生死を左右するとされ、阪神・淡路大震災を機に「早期発見・早期治療」が、より重視されるようになりました。

(インタビュー 2005年2月3日)